年に15%以上を目標にする欲張りな子豚ちゃんの運命とは

投資をはじめる際には「何年後に何%上昇しているか」という目標を立てます。たとえば、証券会社で株式投資をはじめると、営業マンが「この銘柄は3ヶ月で20%上がると思います」という言い方をしてきます。長年、株式投資を続けてきたM夫妻は、こういう言い回しに慣れているため「年に3%の値上がり」なんて論外ですし「年に10%の値上がり」だって我慢ができない水準で「投資するなら年に15%以上儲からないと意味がない!」と考えています。

ただし「年に15%以上の値上がり」を目標とすることがどういうことなのかR夫妻が分かっているのかは、大いに疑問が残ります。というのも現在の日経平均は1万円ですが、仮に今後20年間、年率15%で上昇した場合、20年後の日経平均は16万4,000円になっているからです。つまり「年率15%を目指す」とは20年後には16倍にしたいということですが、過去45年間では日経平均の上昇率が年率7.8%だったことを考えると、とても高過ぎるので、まず実現することはありません。

さらに問題なのは、実現できないどころか大損する可能性が高いということです。「投資の世界」には「リスクとリターン」の関係があって、大きな儲けには大損の可能性がついて回るものなのです。たとえば、年率7.8%の上昇率だった日経平均ですら、過去45年の間には42%も値下がりした年もあったのですから、さらに高い上昇率の投資では50%以上も損をする年があるかもしれません。

  • 毎年3%しか上昇しないけど、せいぜい10%しか値下がりしない。
  • 毎年15%も上昇するけど、酷いときには50%以上も値下がりする。

どちらを選ぶのかは一人ひとりの資産状況によって決まります。誰だって儲けたいでしょうが、住宅ローンをたくさん抱えていれば損が大きいと生活できなくなるかもしれません。つまり目標とする上昇率は本人の希望だけでなく資産状況によって制約されてしまいます。

こんなことなどお構いなしで「年間15%以上儲からないと駄目よ」なんて大きな儲けに目が眩らんでしまう人たちって、まさしく欲張りな子豚ちゃんです。「投資の世界」では上昇相場で力を発揮する牛さんや下落相場で力を発揮する熊さんなら十分に生き残っていけるものの、R夫妻のような欲張りな子豚ちゃんは相場の荒波にコロコロと転がされて気がついたときには大損させられて退場しているかもしれませんよ。

投資選びは一人ひとりの「資産状況」で決まってくる

投資の世界には「リスクとリターンの関係」があって、儲かる見込みと損する可能性は比例します。大きく儲かる銘柄とは大きく損する可能性のある銘柄であり、儲けが小さい銘柄とは損する可能性が小さい銘柄であるということです。つまり、リスクとリターンとは個々の投資の「性質」です。

マネー番組やマネー雑誌の「お勧め銘柄」や「値上がりランキング」にあがってくる銘柄は「大きく値上がりするが、大きく値下がりもする」という性質を持つ銘柄が、たまたま大きく値上がりしている時期に「良い投資です」と仕立て上げているだけで大損する可能性があることはひた隠しにされています。

実際には「良い投資」「悪い投資」というものは存在しません。むしろ重要なのは自分に適した投資を選ぶことにあります。そうした意味からすれば、投資の世界というのは病院で治療を受けるときに似ています。怪我をしたからといって「良い薬をください」と、いきなり病院で尋ねるなんてありえません。レントゲンや血圧を取ってから怪我の症状に応じて処方僕が出されます。

それと同じように「年収」「投資経験」「負債」「年齢」などに応じて、適切な投資というのが大雑把ですが決まってくるものなのです。たとえば「住宅ローンを抱える人」と「1億円の宝くじを当てた人」では、狙えるリターンが違います。前者は大損すれば生活できないので、他の要素はあるものの「ローリスク・ローリターン」に偏ってくるものです。しかし後者は大損しても支障がないため、かなりの「ハイリスク・ハイリターン」にチャレンジできます。

どの性質の投資を選ぶかは投資家一人ひとりの「資産状況」に左右されてきます。具体的には「預金」「債券」「株式」「海外」「不動産」「天然資源」「貴金属」といった「資産」に関係した投資信託を組み合わせ「資産の割合」と「投資信託の性質」を調節することで自分の資産状況に適したリスクとリターンを実現できます。上がったときも、下がったときも、支障がないのが「適切な投資」です。

英語で上昇相場のことを「ブル(=牛)マーケット」、下落相場のことを「ベア(=熊)マーケット」と呼びますが、前者では「1番上がった資産の一部を売って、1番上がっていない資産を買い足す」という戦略が有効です。一方、後者では「1番下がった資産を買い足すために1番下がっていない資産の一部を売却する」という戦略が有効です。

こうした戦略をとっていれば、いつでも「資産の割合」は一定になりますから、上がったときも、下がったときも「投資の世界」で生き残ることができます。しかしR夫妻のように上がったときだけを考えている欲張りな子豚ちゃんは下落相場に遭った時点でイチコロとなる運命にあるということなのです。

高く売って、安く買うには適切な割合と見直しが大事

一人ひとりの「資産状況」に適した投資は組み合わせる「資産の割合」を調整することによって作り上げることができます。全体の「トータルリターン」と「シグマ」は「投資信託の数値」に「割合」を反映させた数値の合計になります(シグマはそれ以下になる)が各資産に対して平均的な投資信託を選んだ場合、「投資信託の数値」は資産の平均に近くなりますから、結局は「割合」の違いによって全体の数値は左右され、一人ひとりの資産状況に適した投資が出来上がってきます。

そこで「資産状況」からリスクの大きく取れる場合には株式や海外などの「ハイリスク・ハイリターン」の資産の割合を大きくし、「資産状況」からリスクを大きく取れない場合には債券などの「ローリスク・ローリターン」の資産の割合を大きくして調整します。こうして一人ひとりの「資産状況」に適した投資が出来上がるわけですが、一つひとつの投資信託の過去のデータから大雑把に全体の「投資リターン」と「投資リスク」を数字で知ることができるため「大学」や「老後」の準備に利用できるというわけです。


  1. 資産の平均に近い「リターン」と「シグマ」を持つ投資信託を選べば「全体のリターン」と「全体のシグマ」を決めるのは「割合」となる。
  2. 過去40年間では「国内債権」「海外債権」「国内株式「海外株式」の順序で「ローリス・ローリターン」から「ハイリスク・ハイリターン」となっている。この主要4資産にたいして、さらに「全体のシグマ」を安定させるために「天然資源」「貴金属」「不動産」等をつけ加える。
  3. 資産状況から「ローリスク・ローリターン」を選択する場合には「国内債権」の割合を多くとり「ハイリスク・ハイリターン」を選択する場合には「国内株式」や「海外株式」の割合を多くとるようにする。

なお、投資というものは、値段が上がったり下がったりするため、時間が経つに連れて値上がりした資産の割合は大きくなり、値下がりした資産の割合は小さくなってしまいます。そこで、定期的に見直しをします。仮に「株式」:「債券」=50:50でスタートした場合、株式が値上がりすれば「株式」:債券」=70:30、または「株式」:「債券」=90:10へ崩れてしまい、せっかくの分散投資の意味がなくなります。

そこで、たとえば「株式」:「債券」=55:45になった時点で値上がりした株式の一部を売って、値下がりした債券を買い足して「株式」:「債券」=50:50に戻してやります。これは「リバランス」と呼ばれる作業ですが、定期的に「リバランス」を行うことで分散投資を維持できるだけでなく、結果的に値上がりした資産を売って、値下がりした資産を買うことになるため、「高く売って、安く買う」という投資の必勝法を自動的に行うことになるのです。

— posted by 斗間下 at 05:18 pm